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JUNYA OGAWA
移動式の光
移動式ギャラリーの年表を辿ろうとすると、デュシャンのトランクの中の箱や小沢剛のなすび画廊などが挙げられる。作品や展示空間のポータブル化がミュージアムやギャラリーといった、ある種の権威を有する場所性を書き換えるように、「代替え」と呼べる作品のレプリカや老舗画廊のパロディは皮肉めいていた。
時は流れ、インターネットが普及しソーシャルメディアが拡張現実となった現在。持ち運び可能な《移動式》の輝きは、どこでも手軽に送受信できる《転送式》に取って変わられてしまうという哀愁のストーリーを想像できるかもしれない。コロナ禍では、展覧会を公開できなくなった多くのミュージアムやギャラリーは「代替え」措置としてWEB上でアーカイブの公開やオンライン展示に踏み切り、結果的にそれらが乱立する光景が広がった。しかし、実物と対峙できないもどかしさ、これを鑑賞体験と呼べるのか?人類は心の中で感じていた。
そんなとき、外出自粛ムードが漂う街では消えた人々の代わりに、雇用悪化により増員したであろうUber Eatsの配達員が縦横無尽に駆けているのだった。漆黒のデリバリーボックスを背負いながら風を切る彼らの姿を目にする度、移動が制限されるコロナ禍に、私は再び《移動式》の光を感じたのだった…。
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